1.退職金の法的性質
退職金は「就業規則に定めのある場合は、労働基準法上では賃金と同じく労働債権になる。」というお話を10月号でご紹介いたしました。今回は、その事に関連した労働判例を2つご紹介いたします。
2.御国ハイヤー事件(昭和56年最高裁)
この事件は、会社が退職金支給規定を従業員の同意なしに変更してしまい、それにより規定変更後の就労期間は退職金の算定基礎となる勤続年数に算入しないこととなりました。規定変更後に退職された従業員の方が「この規定の変更は有効ではない」として変更前の退職金支給規定の効力をもとめたものです。判決は従業員の方の勝訴でした。
この判例のポイントは、退職金支給規定は就業規則としての性格を有するということです。従業員に対して「退職金算定の基礎となる勤続年数が規定変更後算入されなくなる」という不利益変更を会社が一方的に課するものであるにもかかわらず、その代償となる労働条件を何も提供していませんでした。
また、このような不利益変更を是認させるような特別の事情も会社には起こっていません。以上のような状況でしたので最高裁は「退職金規定の変更は合理的なものではない」と判断しました。
つまり退職金の規定は勝手に変更してはいけないということです。「退職金の規定なんて」と思われるかもしれませんがこのような判例が出ていますのでくれぐれもご注意ください。
3.ドラール退職金事件(平成14年札幌地裁)
A社は、就業規則の中に退職金規定を置いており、この規定に基づいて退職金を支給していました。平成11年4月1日付けで、退職金規定に「周囲の情勢および会社の経営状態に著しい変化が生じたときは別途取締役会において個別決定するものとする。」と条文を付け加える改正を行いました。
平成12年3月20日にYさんが同社を退職しました。取締役会は同年決算期に無配となるなどして厳しい情勢と判断して、Yさんに退職金を支給しないことを決定しました。
このことに疑問を感じたYさんは裁判所に申し立て、司法の判断を仰ぐことを望みました。そして裁判所は以下のように判断しました。
「就業規則の改定の効力については、前の退職金規定によれば勤続年数と支給率に応じて一定の金額が決められていました。しかし、退職金の金額を取締役会の個別決定によって減額し、場合によっては、支給しないこともありうることから、就業規則の不利益変更に当たる」という判断がくだされました。よって、改正前の退職金規定により、Yさんに対し所定の退職金を支給しなければならないとなりました。
就業規則や規定に書いてあれば何でも許されると思ったら大間違いです。皆様の会社の規則が本当に今の法律に適合するかどうかもう一度見直しされることをお勧めします!
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